症例① 専門医の大臼歯根管治療30例
根管治療の技術を評価するうえで、大臼歯の症例は重要な指標とされる。日本歯内療法学会の専門医試験でも、大臼歯の症例提出が求められており、技術の判断基準として広く認識されている。
根管治療を掲げる歯科医院のホームページに、適切な大臼歯の症例が掲載されていれば、技術力の判断材料として十分な価値がある。一方で、専門医資格を持たず、症例の提示もない医院が「精密根管治療」や「高品質な治療」を謳う場合、その根拠は不明瞭であると言っても過言ではない。
大臼歯の症例を1つでも確実に提示できる医院なら、一定の技術力があると考えられる。5つ以上あれば、より信頼に足る指標となる。そこで、大臼歯30症例を公開する。

転院リトリートメント症例
最初の5症例は治療途中で転院してきたケースであり、DL根やC-shapeなどの複雑な根管解剖を持つ難症例が中心である。転院の理由はさまざまで、「痛みが取れない」「前医の説明に不安を感じた」などが多いが、中には「なんとなく治療に不安を感じた」という漠然とした理由で転院したケースもある。興味深いことに、こうした患者の直感が結果的に正しく、診断を進めると解剖学的に特殊なケースであることが判明することが多い。

イニシャルトリートメント症例
それ以降の26症例は、当院で最初から治療を行ったイニシャルトリートメントの症例となる。この中には、「これまではかかりつけの歯科医院に通っていたが、根管治療が必要になり、より専門的な治療を受けたいと考えて転院した」ケースも多い。以前は、根管治療専門医院に来院する患者の多くがリトリートメント(再治療)を目的としていたが、最近はイニシャル治療の重要性が広まり、始めから 専門的な治療を希望する患者が増えている。これは、根管治療の専門性に対する認識が向上していることを示しており、10年前には考えられなかった変化である。
根管治療の重要性が一般にも広まりつつある一方で、その流れに便乗し、適切な技術や知識を持たずに「専門性」を謳う医院が増えているのも事実である。新しい分野が注目を集める過程では、このような現象が生じることは避けられない。しかし、本当に質の高い治療を提供する医院を見極める目が、患者側にも求められる時代になってきた。
- 費用、リスクなど
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費用
基本料金 |
イニシャルトリートメント大臼歯+MTA根管充填+直接法ファイバーコア |
130,000 (税込143,000) |
リトリートメント大臼歯+ MTA根管充填+直接法ファイバーコア |
150,000 (税込165,000) |
追加費用(必要な場合) |
難解剖加算(根管湾曲や狭窄が強い場合) |
+10,000 (税込11,000) |
病変加算(根尖病変がみられる場合) |
+10,000 (税込11,000) |
特殊根管加算(C-shape、4根管など) |
+20,000 (税込22,000) |
この30症例の費用範囲 ※ 症例ごとに根管の形態や病変の有無により費用が異なる。 ※クラウンの費用は別途必要 |
143,000~209,000(税込) |
リスクとデメリット
- 転院リトリートメント症例は、治療途中のため通常より診断に慎重さが求められる。
- DL根やC-shapeなどの特殊な根管形態では、治療に高度な技術が必要となる。
- 根尖病変が大きい場合、治癒までに時間を要することがある。
症例②:アメリカで治らなかった難症例の攻略
アメリカ在住の患者。歯内療法専門医による治療を受けていたが、痛みが消えず、「難しい根管である」とのコメントを受け、当院での治療を希望された。

- ①術前レントゲン
近心根の急激な湾曲のスタート地点(赤矢印)が、攻略を困難にする要因となっている。
日本人の歯は他人種に比べて短いため、同じ湾曲でも角度が急になりやすい。
- ②術前CT診断
遠心舌側根(DL根)はアジア人以外では極めて稀なため、術者がこの解剖に慣れていないと攻略が難しくなる。
また、すでに大きな病変が形成されていることが確認できる。
- ③根管形成・充填、セラミッククラウン装着
プレカーブを駆使し、レッジを乗り越えながら根管形成を行い、理想的な根管充填を実施。
セラミッククラウンの適合性も良好。(根管充填・築造後に帰国し、半年後に再来日してセラミッククラウン修復を完了。)
- ④術後CT(半年経過)
すべてのCT断面で根尖病変が大幅に縮小。期間が限られ、プレッシャーのかかる症例であったが、一件落着。
- 費用、リスクなど
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費用
根管治療~支台築造 (リトリートメント大臼歯、難解剖加算、病変加算、特殊根管加算、MTA根管充填、直接法ファイバーコア) |
198,000 (税込217,800) |
セラミッククラウン(e.max) |
125,000 (税込137,500) |
リスクとデメリット
- 近心根の急激な湾曲やDL根の形態が複雑で、清掃・充填が困難になる。器具破折のリスクも。
- 海外在住邦人の問い合わせはしばしばあるが、期間や回数が限られるため、常に理想的な施術と結果が得られるとは限らない。
症例④:自費の根管治療&ジルコニアクラウンでも痛みが続く—本物の専門医が解決

「他院で自費の根管治療を受け自費のクラウンを装着したが痛い」
- ①術前レントゲン
既に根管充填がなされており、ジルコニアクラウンが装着されている。
治療から半年以上経過しているが、違和感はずっと消えず、痛みが増してきたとのこと。
レントゲンでは病変が残存しているように見える。
- ②術前CT
下顎管直上に左下7番由来の根尖病変がみられる。
- ③治療1年後のレントゲン
もともと自費でマイクロスコープとラバーダム下で治療を受けていたとのことなので、クラックなど致命的な治らない要因があるのかと勘ぐったが、単純に技術の問題であった。
クリニック名を聞くと、専門医でもなく、名の通ったドクターでもなかった。
最近は、専門性のない歯科医師が高額な自費治療を行うケースが増えており、慎重な判断が求められる。
- ④同日のCT
病変の治癒が認められる。余談だが、根管治療は前医の治療レベルが高いほど再治療の成功率が下がる傾向にある。今回はむしろ助かった。
- 費用、リスクなど
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費用
根管治療~支台築造 (リトリートメント大臼歯、病変加算、難症例加算、MTA根管充填、直接法ファイバーコア) |
175,000 (税込192,500) |
ジルコニアクラウン |
135,000 (税込148,500) |
リスクとデメリット
- 再治療のため、初回治療よりも成功率が低くなる可能性がある。
- すでに治療されている根管の形状や充填物の影響で、治療の難易度が上がる。
- 1本の歯を治すために、結果的に大きな費用負担が発生する。
- 今回の治療でも治らない可能性があり、さらに追加の処置が必要になる可能性があった。
症例⑥:直角湾曲根管 × 変態的プレカーブ、精密根管治療で抜歯回避

一番奥の歯が強い痛みを伴い来院。動揺度Ⅲであり、保存は困難と予測された。
- ①術前レントゲン
左下7に大きな根尖病変が認められるが、根の先端方向よりも遠心方向に病変が広がっている。CTで詳細に診査することにした。
- ②CT診断
根管が歯根の先端直前で直角に近い角度で湾曲していることを確認。前回の治療もこの地点から先に進めていないことが明らかになった。
- ③プレカーブを駆使して直角湾曲根管を攻略
細い器具の先端に直角カーブを付与し、慎重に湾曲方向へ誘導。
この瞬間、脳内にドーパミンが駆け巡ったのを感じた。
- ④術後半年のCT
広範囲に骨を破壊していた病変が治癒。
- ⑤術後2年のCT
左下7の良好な治癒を確認。完治と言ってよいだろう。同時に治療した手前の歯(左下6)の病変も徐々に縮小していることが分かる。
- 費用、リスクなど
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費用(7番の歯の治療費のみ記載)
根管治療~支台築造 (リトリートメント大臼歯、難解剖加算、難症例加算、病変加算、メタルコア除去、MTA根管充填、直接法ファイバーコア) |
195,000 (税込214,500) |
ゴールドクラウン |
135,000 (税込148,500) |
リスクとデメリット
- 直角湾曲根管のため、治療自体の難易度が高い。
- 動揺度Ⅲのため、治療後も経過観察が必要になる可能性がある。
- 術後の骨再生は確認できたが、全ての症例で同様の結果が得られるとは限らない。
- 根尖病変の範囲が広いため、治癒に時間を要する可能性がある。
- 治療を試みても、最終的に抜歯が必要になることがある。
症例⑧:抜歯方針を覆し、C-shape大臼歯を根管治療→骨再生

- ①術前レントゲン
レントゲンの時点で歯の周囲に広範囲な骨吸収が認められ、歯根破折の可能性も疑われた。
- ②CT診断
エンドペリオ病変が進行し、C-shape根管を有する歯。治療難易度が高く、保存が困難なケースであったが、患者の強い希望を受けて根管治療を試みることにした。
- ③術後4年経過のレントゲン
治療後、歯の周囲の広範囲な骨吸収が改善し、顕著な骨再生が確認された。
- ④術後4年のCT評価
CT画像でもあらゆる角度から骨再生が確認され、良好な治癒が確認された。
余談だが、この患者は自己免疫疾患を持ち、体内の炎症が悪化することで症状が悪化していたという。医師からは抜歯を勧められていたが、根管治療後に症状が改善。術後のCTを担当医に見せたところ、「ここまで骨が再生するとは思わなかった」と驚かれた。
とはいえ、私は根管治療で全身の状態を治そうとは思っていないし、そのつもりで治療をしているわけでもない。ただ、自分のやるべきことをやった結果、思いがけず良い影響を与えたのなら、それはエンドドンティスト冥利に尽きるというものだ。
- 費用、リスクなど
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費用
根管治療~支台築造 (リトリートメント大臼歯、特殊根管加算、病変加算、エンドペリオ病変、MTA根管充填、直接法ファイバーコア) |
215,000 (税込236,500) |
セラミッククラウン(セレッククラウン) |
85,000 (税込93,500) |
リスクとデメリット
- C-shapeのリトリートメントのため治療自体の難易度が高い。
- エンドペリオ病変を伴うため、根管治療単体で治癒が起こるかどうかは分からない。
- 術後の骨再生は確認できたが、全ての症例で同様の結果が得られるとは限らない。
- 歯根破折の可能性があり、治療を試みても最終的に抜歯が必要になることがある。
症例⑨:外傷による大きな根尖病変、根管治療+外科的歯内療法で保存

明石の歯科医師からの依頼紹介。患者は22歳。小学生の頃の外傷による歯髄壊死が疑われる。明石から当院までに何件も根管治療専門医があるが、最終的に当院に依頼が来た。
- ①術前レントゲン
歯根の発育具合から見て、外傷当時にはすでに神経が壊死していたと考えられる。
- ②術前CT
非常に大きな骨破壊像を確認。病変は陳旧性であり、外科的歯内療法を含めた計画を立てた。
- ③MTA充填後のレントゲン(半年後)
根管治療のみでの治癒を期待したが、病変の状態から外科処置が必要と判断。
- ④歯根端切除直後のレントゲン
外科処置を実施。この時点で患者は就職のため遠方へ。
- ⑤術後1年後のレントゲン(帰省時)
大きかった病変が消失し、良好な治癒が確認される。
- ⑥同日のCT
きれいな骨再生が確認できる。
- 費用、リスクなど
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費用
根管治療~支台築造~外科的歯内療法 (イニシャルトリートメント前歯、難症例加算、病変加算、MTA根管充填、直接法ファイバーコア、外科的歯内療法) |
175,000 (税込192,500) |
リスクとデメリット
- 外傷歯のため歯にクラックが入っていることも考えられ、予後は不確実である。
- 根管治療のみでの治癒が困難なケースであり、結果的に外科処置を要した。
- 術後の骨再生は確認できたが、すべての症例で同様の結果が得られるとは限らない。
症例⑩:矯正治療前に発覚した巨大病変、2年かけて根管治癒

茨木の矯正専門医院からの依頼紹介。まだ高校生なので抜歯だけはなんとか回避したい。
- ①術前レントゲン
レントゲン画像に収まりきらないほどの大きな根尖病変を確認。
- ②術前CT
隣の歯まで達しそうな広範囲な根尖病変。炎症は強く、歯根吸収も進行し始めている。
- ③治療2年後のレントゲン
病変が非常に大きかったため、ここまでの治癒に2年を要した。
- ④同日のCT
広範囲に骨破壊が起こっていた部位に、明らかな骨組織の再生を確認。
矯正治療の開始にも支障がなくなり、安心して治療を進められる状態となった。
- 費用、リスクなど
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費用
根管治療~支台築造 (リトリートメント大臼歯、病変加算(20,000)、難症例加算、MTA根管充填、直接法ファイバーコア) |
185,000 (税込203,500) |
※矯正治療を控えているため、CRで仮充填とした。矯正治療後にクラウンで修復予定。
リスクとデメリット
- 病変のサイズが大きく、治癒までに長期間を要する可能性がある。
- 病変の性質によっては根管治療単独での治癒が困難な場合がある。
- 治療後も経過観察が必要であり、追加治療が求められる可能性がある。
- 病変の大きさにより、最終的に外科的処置が必要となる場合がある。
症例⑪:電気歯髄診で反応なし=失活?慎重な介入的診断がもたらした結果

「電気歯髄診で奥歯が2本とも反応がなかったため、2本とも根管治療が必要と言われたが、本当にそうなのか知りたい」とのことで来院。
- ①術前レントゲン
右下6は明らかに失活している。一方、右下7は歯髄に近い治療跡があり、電気歯髄診では反応がない。やはり両方とも根管治療が必要なのかと疑いつつ、慎重に診断を進める。
- ②術前CT
右下6の大きな根尖病変が右下7の根尖部を巻き込んでいるようにも見える。しかし「上行性歯髄炎」の可能性も考えられる。現時点で右下7は無症状であり、直ちに根管治療を行うべきか慎重に判断する必要がある。
患者と話し合いの末、まず右下6の治療を行い、右下7は経過観察とする方針を決定。
- ③治療1年半後のレントゲン
結果として、右下7は失活していなかった。右下6の治癒が進むにつれ、右下7の電気歯髄診での反応が回復し、最終的には正常反応を示すようになった。
- ④同日のCT
右下7を抱き込む形で存在していた右下6の病変はほぼ完全に治癒。
そして何より、右下7に根管治療の必要がなかったという診断が正しかったことが確認できた。この判断の正確さは、治療結果以上に価値のあるものである。
- 費用、リスクなど
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費用
根管治療~支台築造 (イニシャルトリートメント大臼歯、病変加算、特殊根管加算、難症例加算、MTA根管充填、直接法ファイバーコア) |
175,000 (税込192,500) |
セラミッククラウン(e.max) |
125,000 (税込137,500) |
リスクとデメリット
- 治療の経過観察が必要であり、即時の治療を求める患者には不向きな場合がある。
- 病変が大きく、完全な治癒には長期間を要する可能性がある。
- 初期診断の段階では、最終的に右下7の治療が必要になる可能性を完全には否定できない。
- もし本当に右下7が失活していた場合はさらに治療期間が長くなり、その間に悪化することもある。ある意味賭けでもある。
症例⑬:最大の敵は治療期間 – 海外移住を控えた患者の根管治療

2ヶ月後に海外移住を控えた患者
かかりつけで前歯の根管治療を開始するも、数回の治療を経ても腫れが悪化。専門医を探し、隣県より2時間以上かけて来院。
- ①治療前の口腔内写真
大きな膿瘍を形成。若い頃の外傷による失活歯で、これまで問題なかったが、治療を機に急激な炎症を発症。
- ②治療前のレントゲン&CT
外傷歴があるため、CTでも検出できないヒビがある可能性を考慮。ただし、患者には時間がない。リスクを承知の上で、1回法でMTA根管充填まで完了させ、次回来院時に治癒していなければ即時外科的歯内療法へ移行する方針とした。
- ③治療後の写真(根管充填後、インターナルブリーチ、CR充填)
結果として、次回来院時には膿瘍は完全消失。この段階でインターナルブリーチによる色調改善を実施。左右対称の完全な仕上がりは困難だが、初診時と比較すると審美性は大きく向上。
- ④出国直前のCT
治療開始から2ヶ月という短期間ながら、治癒の兆候を確認するためCT撮影を実施。結果、2ヶ月とは思えないほどの根尖病変の改善が認められた。
- 費用、リスクなど
-
費用
根管治療~ 支台築造、CR充填 (リトリートメント前歯、病変加算、難症例加算、MTA根管充填、直接法ファイバーコア、インターナルブリーチ) |
155,000 (税込170,500) |
リスクとデメリット
- 1回法で根管治療を完了するため、再発リスクが通常より高い可能性がある。
- 外傷歴のある歯のため、CTに映らない亀裂が存在する可能性がある。
- 海外移住後の経過観察が困難なため、今後のトラブルに即対応できないリスクがある。
症例⑮:外傷後の変色と膿瘍、見極めの重要性

4ヶ月前に外傷で前歯が破折し、近医で破片を再接着された。その後、歯肉の腫れと痛みが出現し、再度受診したが「様子を見ましょう」と言われるのみだった。
患者は神経を可能な限り保存したいと考えていたが、適切な治療を希望し受診。
- ①術前写真
歯の変色と歯肉の膿瘍を認める。電気歯髄診では失活が確認された。
- ②術前レントゲン・CT
明らかな根尖病変を確認し、根管治療が必要と診断。
同時に、隣接歯の状態も確認し、現時点では介入の必要がないことを確認。
治療中も、可能性のある歯髄の生存を慎重に評価するため、無麻酔での処置を実施。
- ③術後写真
破折片を全て除去し、歯冠の半分以上をコンポジットレジンで再建。
歯肉の膿瘍は完全に消失し、患者の自覚症状も改善。
- ④術後レントゲン・CT(術後6ヶ月)
病変は著しく縮小し、明確な骨再生が認められる。
- 費用、リスクなど
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費用
根管治療 ~ 支台築造、CR充填 (イニシャルトリートメント前歯、病変加算、難症例加算、MTA根管充填、直接法ファイバーコア&CR充填) |
120,000 (税込132,000) |
リスクとデメリット
- 外傷による歯のダメージは時間とともに悪化し、適切な治療が遅れると根尖病変の進行や歯の保存が難しくなることがある。
- 破折片を除去したことで歯質の喪失が大きくなり、将来的に補綴処置が必要になる可能性がある。
- 外傷歯は長期的な経過観察が必要であり、治療後も変色や歯根吸収のリスクを伴う。